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翼をください

2002/5/20 18:17 、構想は京都賀茂川にて。

まだ人類の移動手段が陸上と水上に限られていた頃、数多の人が、大空を自由に飛べたらどんなにいいだろうと考えた。

まずは鳥の動きを真似ることから始まった。素手で、あるいは翼を模したものを両手に備えて、力の限り羽ばたいた。しかし、鳥類の大胸筋は人間のそれよりも遥かに発達していることが分かり、人々はこぞってトレーニングを開始した。日夜腹筋、背筋に明け暮れた。かつてないほどの強靭な筋肉を手に入れた人々は、いつの日か自らの体を宙に浮かすことができるようになるのを信じて、羽ばたいては筋トレ、筋トレしては羽ばたき、を繰り返した。

どれだけ筋肉を増強しても大空を制すことはできず、多くの人は自らの身体構造を恨んだが、筋肉バカ自信のある者は、相変わらず筋トレに没頭した。そういった自分の能力を信じきった純真無垢な体育会系を尻目に、ついにその日はやってきた。彼らにしてみれば意外な結末だった。

1903年、アメリカ。ウィルバー=ライトとオーヴィル=ライトの兄弟により、遂に人類は陸、海のみならず空までを制覇することになる。彼らの発明した「飛行機」は、気球よりも速く移動でき、しかも自由に操縦できることから世界中の注目を集め、瞬く間にその噂は全世界を駆け巡った。

これに腹を立てた何人かの体育会系が兄弟の命を狙ったのは言うまでもないが、飛行機の特許で莫大な富を築いたライト邸には、彼らの潜入計画など事前に発覚して、ライト邸地下室格納の特殊飛行機「ギロチン」のプロペラに縛り付けられ、よく晴れた日の午後、5万エーカーの広大な小麦畑の上で血祭りに上げられるのがせきの山だった。人々はギロチン号を「午後2時の赤い雨」と呼び、恐れおののいた。

けれども科学の進歩の日進月歩、確か2060年くらいのことだったと思うが、人類を構成する遺伝情報は完全に解析され、そればかりでなく遺伝子操作の方法も確立され、日本遺伝情報操作医師会(the Medical Society of Japan Genetic code Control ; MSJGC)の長年の研究の成果の集大成として人類の遺伝子を編集する「DNAditor」なるフリーソフト(Windows上で動作する)まで公開された。

「DNAditor」で編集した遺伝情報は、編集の程度にもよるがおよそ3分程度の音階に置き換えられ、出力された短い「音楽」を胎児に聞かせるだけでDNAの書き換えは完了する。初心者でも簡単に扱えるこの手軽さも手伝って、「DNAditor」は空前の大ヒット製品となった。アメリカでは当然のように訴訟に発展。

当初「性別」「目の色」「アレルギー体質のON/OFF」程度しかなかった編集項目は、数々のバージョンアップを重ねることにより、将来かかる病気、食物の嗜好性、顔のパーツの位置(XYZ座標で詳細に設定可)、果ては腕や指の数、声の高さまにで及び、まさに「DNAditorで思い通りのお子さんを!」のキャッチコピーに偽りなしという状況になった。

そして勿論、人々は我先にと「万能のDNA」を編集しはじめた。「あそこのお子さん、最高時速826km/hですってよ、奥さん」なんていう会話も井戸端会議で頻繁に聞かれる世の中だ。

やがて人々は「空を飛べるようにDNAを編集する」ことを考えた。

現在までのところ最も洗練された「飛行人間」は、肩から手首にかけての部分にもう一つの「手」を作る、というものだ。先ごろ絶滅してしまった「コウモリ」とかいう哺乳類のように、腕の部分に指を作り、指と指の間にはごく薄い膜を生成することで、より効率的に空気をとらえて羽ばたくことができる新種だ。そう、かつて人々が夢見た「自力で飛行」も今では実現されてしまったのだ。

まあこの発想自体は決して斬新なものではなく、100年以上も前、既に「バットマン」とか何とかいう非立体方式の映画で採用されていたアイディアだ、と先日の教育番組「世界の名作古典映画」で紹介されていたが。

こうして、おおむね過去40年以内に誕生した人間にはたいてい翼がついているわけだが、ただ空を飛べるだけでは単に楽しいのみで、何ら有用性がない。特に、高騰し続ける地価は深刻な問題で、時の日本国大統領は、早急に「Sky Office System」(通称「SOS計画」)を実現させる必要に迫られ、多額の研究費用を投じるもなかなか成果を挙げることができずに、野党の激しい非難の的となっていた。

従ってこの段階では、ピザ屋の宅配くらいにしか利用価値がないのだ。もっとも、「飛べるバイト」と「バイクのバイト」では時給が600円も違うのでこのバイトで生活している者にとってはありがたいことであったり理不尽なことであったりする。

あらゆる手を尽くしたにもかかわらず実現しないSOS計画。さすがに非生命体である「建造物」をDNA操作して翼を持たせるわけにはいかなかった。業を煮やして立ち上がったのは、もう今年で180歳を超えるというアニメ界の巨匠、宮崎監督。
監督「建物を空に浮かしたいんだって?いい方法があるんだけどな〜。でも教えるには条件があるんだよな〜。」
文相「・・・仕方ない。分かりました。例の映画のR指定を解除しますよ。子供たちのいじめを助長する恐れがあるんですがね。『万と万作の靴隠し』。」
監督「そう来なくっちゃね。ずっと黙ってたんですけど、もう言います。言っちゃいます。飛行石、あれ実はスリランカの鉱山に鉱脈ありますよ。」

この人に対しては「何故今まで黙っていたんですか」とはさすがに誰も言えずに、大統領は早速研究チームをスリランカに派遣した。

わりとあっさり飛行石の鉱脈発見。

しかし希少性が高いことには変わりなく、スリランカ政府との交渉が不調であったことも影響して、飛行石の年間輸入量は決して多いとは言えないのが現状だ。

それでも日本の企業の約半数は飛行石を導入、「行ってきます」と言うなり空へと羽ばたくサラリーマンの姿もそこら中で見られる。「日本の企業の約半数」と言っても、これらは中小企業や個人店舗が主であった。大企業のオフィスを浮遊させるには相応の大きさの飛行石が必要で、改正商法では飛行石の独占を防止する目的で、一つの企業あたりに認められる飛行石の所有量は企業の規模に関係なく一定と定められているのだ。

そのため、法律で許容される最大量の飛行石を所有していたとしても、せいぜい4階建ての建物を浮かせておくのが限界のようだ。さらに、建物の中の全ての重量を一定量の飛行石の浮力でまかなうわけだから、「最大同時入店人数」は厳しく制限されている。勿論、バイトの泊まり込みは厳禁。もし飛行石に支えきれない重量に達すると、建物はたちまちバランスを崩し、一気に地上めがけて落下してしまうから危険極まりない。一度バランスを崩すと体勢を立て直すのは困難だし、この手の事故では大惨事は免れない。事実、年間3件程度ではあるが、半額セールを敢行した個人の店舗が地上に墜落、多数の死傷者を出すという事故が起こっている。しかも、被害を被るのは地上にいる人なので始末が悪い。空中の店舗に入れる人は、みな翼を持っているのだから。

次第にこういう事故に対する批判が強まり、遂には「飛行石は悪魔の石だ」と訴えるデモが国会を取り囲み、法規制はされないまでも、SOS計画は「未成熟で危険な計画」との評価を与えられるに至った。

そうした中で、徐々に飛行人類に対する偏見と差別とが台頭してきたのだが、せっかくの技術を衰退させてはならないと頑張ったのが「DNAditor」作者であるMSJGCだ。「小型の店舗なら安全」と強く主張、全国のアダルトビデオ店舗を宙に浮かせる構想を提案した。

MSJGCの本意としては、女性向けに化粧品店も空中にもっていきたかったようだが、こちらは全国の婦人団体の猛烈な反対にあって却下を余儀なくされた。しかし対象店舗がAV店であるために、本当は反対したくとも声高らかには主張できない男衆、誰か反対運動を展開してくれと指をくわえている間に、ほとんど全てのAV店が宙に浮いてしまった。

AV店舗がこれに賛同した理由として、医師会が「研究用」の名目で撮影したヤバいビデオを横流ししたとされているが、現在のところ真相は明らかになっていない。空中のAVは「良質」というのは周知のことだからまず事実なんだろうけど。

良質のAV観たさに男どもは秩序を乱さない。おおかたの店舗では、店に入ってよいのは最大5人までと制限されており、店の外には順番待ちの長蛇の列。けれども順番を待っている間は浮遊し続けなければならず、つまるところひたすらホバリング。自らの性欲のために己の大胸筋にムチ打ってホバリングをするも、力尽きたら生命の危険もあるので、大胸筋がピクピクしだしたら潔く地上に戻るのが得策だ。もし中途半端な意地を張ってホバリングし続けようものなら、地上までに要する筋力を使い果たし、
「AVのせいで命を落とした」
なんていう、まさに末代までの恥となってしまう。

この世界でAVを見ることができるのは、鍛え抜かれた大胸筋をもつ男の中の男だけなのだ。軟弱な男にAVなど見せぬ、というのが男たちの間での暗黙の了解。真の男は空中にあり。地上にいる男なんて男じゃない、とまで言われる。

そのおかげで、たいしてかっこよくもない僕には、もったいないくらいのかわいい彼女がいる。

翼なんていらない。


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最終改訂日
20111123日 (水) 】
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