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淋しさから逃げる

2002/1/21 3:54 am 、「備忘録にアップロードした『淋しさから逃げる』」の転載。

閉じたまぶたに陽が差し込んできて目が醒めた。近眼がひどくて時計の針はさっぱり読めないが、この気だるい感じはきっと午後二時を廻った頃だ。

僕の隣には彼女、まだ夢の中。こんな生活を、もう半年くらい続けている。苦痛ではないけれど、多分満たされているのだろうけれど、僕はすっかり笑うことを忘れた。

寝息を横に、僕は考えた。好きって何だ。口下手なくせに惚れっぽい性格、僕は常に誰かに心を奪われていた。中学の頃に、誰の為なんだろう、ということに思いが行き、それで随分悩んだ。好きな子に喜んでもらいたくて、おもしろいことを言ったり、欲しがっていた本や CD をプレゼントしたり、ふたりで旅行に行ったりした。彼女は喜ぶのだけれど、その笑みを見て結局僕が喜びたいだけなんじゃないかと、僕自身の犯罪的な愚直さに目を向けた途端、しばらく冬が続いた。

でも献身だとか奉仕だとか言うものは、その根には大抵、自己満足という灰汁あるいは黄金水が流れているんだとも思った。それで、結果、相手の人が喜んでくれるのなら、それでいいじゃないか、と。誰が為に花は咲く、ではないけれど、誰の為に心を尽くす、ということを考えるのに、大分時間をつかった。それでたどり着いたのは結論ではなく妥協?諦観?

「考えても答えは出ない。現状維持。」

…時間をかければいいというものではないらしい。そう言えば、「人をして大成せしめるのは、熟慮ではない。」と言った偉い人がいたなあ、なんてことを思い出した。まだ起きない。

僕ら二人は全裸である。全裸のまま僕は眉間にしわを寄せて考えているのである。好きとは何か。このあどけない寝顔の、少女と呼ぶにはいささか大人びた女のことを、僕は好きだ。毎日会っても苦ではないし、死んだら涙も流すだろう。けれどこの気持ちと、家族や友人に対する気持ちとが、全く異質のものであるとも思えない。そもそも僕らは何故一緒にいるのか。それすらも考えるとよく分からない。お互い、かけがえのないただ一人の人だけど、見つめ合ってお前しかいないんだ、ずっと一緒にいようね、と本気も本気、大真面目に誓い合った人は、僕も彼女も、何人目になるのだろうか。

彼女は僕がこの話題を振ると逃げる。まだ付き合い始めて間もない頃、

「私も一度、ものすごく考えたことがある。」

とだけ言ったことがあった。それ以上は話そうとしなかった。以来、彼女は僕がこの話を持ち出すと、僕の唇をその唇でふさぐのだった。そのままずるずると「愛し合う」のだった。僕もそれが嫌ではなかった。

僕らの興味の対象は、人だ。音楽も文学も絵画も、あらゆるものの両端には、「人」が存在している。人を好きになることも、同じことなのかと思った。興味。この人はどういう人なんだろう、何を考えているんだろう、何が好きなんだろう、という興味。しかしこれでは相変わらず、異性で、かつ一人でなければならないという暗黙の、というにはあまりにも公然の、「規範」を飲み込むわけにはゆかない。何故一人としか付き合ってはいけないのか、お互いを豊かにし合えるのならそんな制約は馬鹿げていないか。そう考えると、いよいよ浮気や不倫が何故不道徳的と決めつけられてしまうのかが分からなくなった。嫉妬という感情が、神様が僕らの中に仕込んだものであることは確かなのだけれど、肝心の、これが善いものなのかそうでないものなのか、分からない。僕らは嫉妬して一体どうしたい・どうなりたいというのだろう。

彼女が目を醒ました。このところずっと同じことを言っては同じように逃げられているからか、僕の表情を見て迷わず言い当てた。

「また?」

まただ。その通りだ。このループは当分抜け出せそうにない。それに君だってこのことに興味がないわけではないだろう。話を打ち切られそうになって不満そうな僕の横で彼女は煙草に火を点け、言った。

「だって一人は淋しいでしょう。温かい布団の方がいいでしょう。」

それはそうなのだが。そうなのだが。

点けたばかりの煙草の火を消し、彼女は僕にキスをした。僕らは愛し合ったが、二人とも何も言わずに涙をこぼした。


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20040523日 (日) 】
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